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-六道輪廻-
何度生まれ変わったとしても 君を探し出すと誓う 
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さて、問題です。


このクラスの中で、誰よりも生き残るべきなのは、誰でしょう。
 
 
◆ 

 
「男子3番、神尾龍之介。 逝ってよし」

中條晶子(女子2番)が教室を出てから10分程経った頃、榊原五郎(担当教官)の低く静かな声が、人数が減り最初よりも広く感じるようになった空間に響いた。
名前を呼ばれたことに驚いたのか、びくっと跳ねるように頭を起こした神尾龍之介(男子3番)明るい髪色の後頭部を、成瀬萌(女子3番)は見つめていた。
授業中なんかには、こくりこくりと舟を漕いでいたり、いきなりびくっと体を震わせた後に慌てて周りを見渡したりするのと同じくらいに見慣れた仕草だったのだけれど、今回はそんな平和的な話ではない。
戦場に行くように、という赤札のような宣告を受けたのだから。

龍之介が床に置かれた鞄を手に取る時、横顔ではあったけれどもその表情が見えた。
普段の明るい弾けるような笑顔は見る影もなく、浅黒い肌は血の気が引いているからかやけにくすんで見えたし、いつもなら生気に満ちていた瞳はどこか虚ろ――ただ、伏せ目がちの龍之介くんはなかなか見られないのだけど、やっぱりかっこいい人はどんな表情もかっこいいと思った。
さすがは、萌が惚れた男の子。

龍之介は立ち上がりざま、唯一教室に残されることになる萌に目を向けた。

「龍之介くん…」

小さく名前を呼ぶと、龍之介はふっと優しい笑みを浮かべた。
これまでに見たことのないような悲しげで儚げで優しげな表情に胸がぎゅっと締め付けられるような感覚を憶え、萌の双眸からは自然と涙が零れ、頬を伝った。

「龍之介くん…龍之介くん…っ」

「萌ちゃん…泣くなって、大丈夫、なんも怖くないからさ。 だって、俺らだぜ? 誰も、誰かを傷付けるはずない」

龍之介くんだって、本当は怖いくせに。それなのに、萌を気遣って、優しい言葉をかけて励ましてくれる。
萌は、そんな龍之介くんの優しさが好き。大好きなんだよ。
萌が口角を少し持ち上げて笑みを返すと、龍之介は小さく頷き、萌に背中を向けて教室の前方へと向かった。

大塚千晴(男子1番)が戸惑いながら言い、櫻田かおる(女子1番)が泣きじゃくりながら呟き、柏谷天馬(男子2番)が不機嫌さを前面に押し出して吐き捨て、晶子が感情の感じられない一本調子で読み上げた『私たちは殺し合いをする』という洗脳の言葉を、龍之介は普段よりは覇気はないけれどそれでもはっきりとした口調で言い切った。
1人に1つずつ渡しているデイパックを渡部ヲサム(担当教官補佐)から受け取ると、龍之介は重傷を負い椅子に座らされている担任の藤丸英一の前に立ち、その肩にそっと触れた。

「藤くん、大丈夫だから。 俺ら仲良しなの、藤くんはちゃんと知ってるっしょ? みんなでどうすればいいか考えるからさ、だから、大丈夫」

ハッ、という吐き捨てるような笑いが聞こえ、龍之介は顔を上げ、声の主である虎崎れんげ(担当教官補佐)を見遣った。
虎崎は教卓に置かれていたバインダーを手に取ると舐め回すように見た後、にいっと笑みを浮かべて龍之介を見返した。

「“仲良し学級”…ねぇ」

「…そうだよ、俺ら付き合い長いし、すっげー仲良し…だから、プログラムなんて成り立つはずが――」

「本当にそうかい? 本当に、何一つ確執のない、亀裂のない、互いを憎んだり傷付けたりすることの一切ないクラスだったのかねぇ?」

萌の位置からは龍之介の横顔しか見えなかったのだけれど、虎崎の言葉に、龍之介は大きく目を見開いた。
目を泳がせ、唇を戦慄かせ、2歩程よたついた後、踵を返して教室を飛び出した。
何か、思い当たる節があるのだろうか。
もしかして、萌が龍之介の幼馴染である晶子と仲が悪いことを思い出し、晶子を守らないといけないとでも思ったのかな――そうだとしたら、とっても傷つくんですけど。

クラスメイトが誰もいなくなった教室を見渡した。
小さく溜息を吐いた後、萌は鞄に手を伸ばし、淡いピンク色で大きなリボンが付いた化粧ポーチを取り出し、机の上に置いた。
手鏡に自分を映す。目が腫れちゃってる、泣きすぎちゃったかな。髪が乱れてるのはあのオバサンに掴まれたからだよね、大体あんなに怒ることないじゃない、更年期障害ってヤツ?唇が乾燥してる、この前おろしたばかりの桃の香りのリップはポケット…じゃなくてポーチに入れたんだっけ。
制服の上着のポケットに伸ばしかけた手を止め、ポーチの中を探っていると、渡部が戸惑いを含む声を出したので、萌は顔を上げた。

「え…え、え?成瀬さん…え??」

「なんですかぁ?プログラムって、身なりを整えるのがダメとか、そういう決まりでもあるんですかぁ?」

「や…いやぁ…ないけど…構へんねんけど…」

「じゃあなんですかぁ? …まあ、萌のこと見ていたい気持ちはわかるんですけど」

国の偉い人(なのかな?)まで虜にしちゃうなんて、さすが萌。でも、あの人はあんまり萌の好みじゃないかなぁ、無精髭って好きじゃないし。多分若い人なんだろうけど、若いなら若いなりに、藤くんみたいな爽やかさが必要だと思うのよね。まだ、あっちのスーツの人の方が良いかなぁ、身だしなみに気を遣ってそうな辺りが。

「あっはっはっ!!さっきはあんだけピーピー泣いてたのに、肝据わってるんだねぇ!!この状況が怖いとか言ってたのは演技かい?!」

今度は虎崎が大声を上げて笑った。
オバサンの笑い声って不快。萌はあんなオバサンにはなりたくないなぁ。
そんな感情は表に出さず、萌は髪を整えた手を止め、虎崎に目を向けた。

「えぇ~、怖いのは本当ですよぉ?本当にいっぱい泣いちゃったせいで、目が腫れて困っちゃってるくらいだしぃ。でも、外でまた龍之介くんたちに会うかもしれないんだから、ちゃんとしておかないと、会った時にがっかりさせちゃうでしょ?…まあ、髪が乱れてたり目が腫れてたりする位じゃ、萌の可愛さは変わったりしないんだけど」

萌みたいに可愛い子は、男の子たちをがっかりさせないように、いつだって最大限可愛くあるべきだと思うのよね。アイドルだってそうじゃない?あ、もちろん萌はその辺のアイドルより可愛いけど。
そう付け加えると、笑い声を上げていた虎崎はその不快な声を止め、あんぐりと口を開いてぽかんと萌を見つめていた。
あまり身なりを気にしてなさそうな人だから、萌の言葉に目から鱗ってヤツだったのかな?

「…準備はいいか。女子3番、成瀬萌。逝ってよし。なお、20分後には当エリアは禁止エリアになるので注意するように」

名前を呼ばれ、萌はポーチを鞄に入れて立ち上がった。
皆が言わされた言葉を繰り返し、デイパックを受け取った。うーん、萌には似合わないなぁ。

「藤くん…?」小さく名前を読んでみたのだけれど、返事がない。龍之介が声をかけた時も返答がなかったので、気絶してしまったようだ。

「お大事にね、藤くん…」

「頑張ってきぃや、成瀬さん!」という渡部の声を背中に受けながら、萌は教室を後にした。


外に出ると、萌はまっすぐ進んだ。建物の側をうろうろしていたら、禁止エリアとやらに引っ掛かりかねない。首輪が爆発するだなんておぞましいったらない。
誰かに襲われるかも、などという心配はしていなかった。龍之介が萌に言ったように、誰かが誰かを、というよりも誰かが萌を傷付けるはずなんてないと思った。

かおるちゃん。
かおるちゃんってば委員長のくせにのんびりしてるのがイラッとする時もあったけど、だからこそプログラムの中では誰よりも脅威だとは思えない。“ジンチクムガイ”って、あの子のことだと思う。
まあ、いい子だとは思ってる。萌ってばこんな恵まれた容姿だからか、女の子には僻まれたり妬まれたりして好かれないんだけど、かおるちゃんはそういうこと、なかったもんね。

晶子ちゃん。
普段からあまり仲良くすることってなかったし、何となく好かれてないのはわかってた。だけど、晶子ちゃんはそれを理由にして人を傷付けることはしないと思う。そういう子だったら、もっとたくさんぶつかってたと思うもの。
モデルみたいで、しっかり者で、大人びてて――正直、好きじゃない。外見がどうとか、中身がどうとかよりも、龍之介くんと幼馴染だからって一緒に登下校してたりするのがすごく嫌。ずるいじゃない。

千晴くん。
千晴くんって、イマイチ何を考えているのかわからない時はある。だけど、文化系だし、絵を描いたり雲を眺めたりしているような千晴くんが、人を傷付けるとは思えない。
そういえば、千晴くんって、萌や晶子ちゃんのことは名字で呼ぶのに、かおるちゃんだけは名前で呼んでたなぁ。部活が同じだからかな、と思ってたんだけど、もしかしたらもしかするのかも?千晴くん、萌のことは好きだと思うんだけど(男の子が萌のこと好きじゃないなんてありえない)、きっと萌は“高嶺の花”だからかおるちゃんで妥協したのかな?

天ちゃん。
天ちゃんは、誰よりも萌を傷付けるはずない。さっきはあのオバサンから萌のこと護ってくれたし、普段から萌のこと気に掛けてくれてたもの。
普段はツンツンしてるけど、萌、知ってるよ。天ちゃんってばツンデレってヤツで、実は萌のこと大好きなんだよね?うーん、その気持ちは嬉しいんだけど、応えられないや。だって、天ちゃんは小さくて可愛いもの。もっと背が高くて男らしければ、隣にいる萌の可愛さが引き立つから気持ちに応えても良いんだけど…。だから、せめて、晶子ちゃんとのことは応援してるよ。

龍之介くん。
自分だって不安で怖かったくせに、萌のこと心配してくれた。きっと萌に会えたら、笑顔で迎えてくれて、抱きしめてくれると思うの。萌を傷付けるなんてありえない。
ああ、ほんと、龍之介くんのこと好きだなぁ。だって、もちろん優しいところはたまらなく好きなんだけど、あの容姿。かっこいい彼氏と可愛い彼女、とっても絵になるじゃない。ちょっと色黒の龍之介くんの隣の萌はより色白に見えると思うし、例えばキスをする時には頑張って背伸びをする萌――ああ、とっても可愛いわ、我ながら。

ほら、誰も彼も萌を傷付けるはずがない。
クラスメイトたちへ思いを馳せながら歩いていると、微かに水の流れる音が聞こえてきた。確か、教室で見た地図によれば、会場の中には川が流れていた。それは管理事務所のあるB-3エリアではなかったはず、どうやら禁止エリアに引っ掛かることはなくなったようだ。

萌は川の傍の岩に腰を下ろした。
デイパックから地図を取り出し、改めて自分のいる場所がB-2エリアであることを確認した。
更にデイパックの中を探り、水の入ったペットボトルや、不味そうなパンを確認し――奥底に入れられた箱の存在に気付いた。
箱を取り出し、そっと蓋を開け――ごくり、と唾を飲み込んだ。
箱の中に入っていたのは、これまでテレビドラマや映画でしか見たことがなかった、銃だった。全長は20cm弱、基本的には黒色だがスライドはシルバーに光る、全体に丸みを帯びた自動拳銃――S&W シグマと説明書には書かれていた。
ごつくないだけマシかもしれないけど、萌に似合わないなぁ。萌が持つより、萌を護ってくれるボディーガードが持つのに相応しいと思うんだけど。

ただ…

萌は、じっとシグマを見つめた。
これを上手に使うことができるなら、生き残れるような気がする。
これはプログラム、みんなは萌のことを傷付けないだろうけれど、それではいつまで経っても終わらない。

かおるちゃん。晶子ちゃん。千晴くん。天ちゃん。龍之介くん。
……ごめんね。

たった6人の学級。一緒に勉強して、一緒にご飯を食べて、一緒に遊んだ、たった6人のクラスメイト。皆がいなくなることを想像するだけで、悲しい気持ちになる。
けれども、ここで萌がいなくなるわけにはいかない。学校には萌のことを大好きな男の子たちがたくさんいてきっと皆が萌の帰還を待っている。それに、萌がいなくなれば、これから先萌に出会う予定だった全ての男の人たちの人生に大いなる損失を与えることになってしまう。そんなの、可哀想すぎるでしょう?

「…待っててね、みんな。 萌、頑張るからね」





このクラスの中で、誰よりも生き残るべきなのは、誰でしょう。

正解は…

萌、でしょう?



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