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-六道輪廻-
何度生まれ変わったとしても 君を探し出すと誓う 
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気づかなかった。

こんなにすぐ近くに、亀裂があったなんて
 


 
大塚千晴(男子1番)は出発してから、とにかく自分のいる公園管理事務所エリアB-3を出る事だけを考えた。
自らを新しい担任だと名乗った榊原五郎の話では、出発した生徒がこのエリアを出るまで次の人が出発できないということだった。
最初に出発した自分がもたついていたら、何時までたっても次が出発できないということだ。
ずっと自分がここで留まっていれば、みんなが出発できなくて、ずっと殺し合いなんてしなくてもいいのでは…なんていう甘い考えも頭を過ぎったが、千晴はそれを振り払って進み続けた。

エリアを出る際に、千晴はどこに進むべきか悩んだがC-4の売店を目指すことにした。他のクラスメイトを待つという考えももちろんあったけれど、それを止めたのは管理事務所エリアが意外と広く、どこで待っていればいいか考えても分からなかったからだ。
とりあえず食料を確保するためには、地図を見る中では売店が一番都合が良い。
この青春海立運動公園には何度か千晴も足を運んだことがあったけれど、ここの売店は商品が充実しており、食料品や飲料水以外にもキャンプのグッズや、怪我に備えての治療用薬品等もあった記憶がある。
殺し合いなんてするつもりはないけれど、“もしも”のための準備をしておくに越したことはない。そ
う考え、千晴は足を進めながら自分の考えを鼻で笑った。
 

もしも、か。

 
『私たちは、殺し合いをする』

『やらなきゃ、やられる』

本部を出発する時、渡辺ヲサム(担当教官補佐)に言わされた言葉が突き刺さる。
言わされたとはいえ、もう二度と口にしたくない言葉だ。
あの言葉を口にした後の、藤丸栄一(3年星組担任)の泣きそうな声を思い出すと今にも胸が張り裂けそうだった。藤くんは、きっと最後まで俺たちのプログラムに反対して、あんなに傷だらけになるまで殴られて。それでも、責任を感じている。
藤くんのためにも、絶対殺し合いなんてしたくない。

---出来るはずがない。

 
自分を含めて、たった6人しか居ない星組のクラスメイト。一年次からの持ち上がりで、あまり人付き合いが上手くない自分も心を開くことができた、大切な友人達だ。
ずっと、それなりに楽しくやってきたし、彼らを信頼している。3年間机を並べて、楽しいことも、辛いことも共有してきた。
どうやったって、このクラスで殺し合いなんて、できるはずがないのだ。
 
売店に到着し、千晴は自動ドアの前に立った。
電気は通っていないようだが鍵は掛かっておらず、自動でドアは開かなかったものの、簡単に手で開けることが出来た。
中は千晴が以前来た時となんら変わっておらず、想像通り所狭しと物が並んでいる。
千晴は店をぐるっと一周した後、デイバックの中身を確認すべく腰を下ろした。
武器を確認したり、もしものことを考えたり、自分の行動は矛盾しているとは思いながらも、千晴は慎重にバックの中に手を入れた。なにか長い、見慣れぬものが目に入ったからだ。

 
「刀…か?」

 
ゆっくりと取り出したそれは、海軍刀だった。鞘に収まってはいるものの、独特の曲線を描いたそれは、普段決して手に取ることのない明らかなる武器だった。
千晴はなんだか怖くなって、すぐにそれをバックに仕舞い込んだ。急に殺し合いの現実を目の当たりにしたようで、刀を取った手がガタガタと震えている。冷や汗が背中を流れていくのが分かった。
 

「ハル?」
 

突然、背後から声をかけられ千晴の心臓が跳ね上がった。
声がした入り口に目を向けると、きゅっと結い上げられたお団子頭が目に入った。
 

「中條さん!」
 

千晴が振り返って名前を呼ぶと、中條晶子(女子2番)は切れ長の瞳を緩ませて、ほっと息を吐いた。
この状況にも取り乱した様子はなく、いつもと同じ凛とした空気を纏っている。クラスで一番大人びていて、普段から頼れるお姉さんといったポジションの女の子だ。
こう言っては可哀想だが、クラス委員勤めている櫻田かおる(女子1番)よりも、よほどしっかりしていると思う。(これを言うと、かおるちゃんは拗ねるんだよな。まぁ、それが面白いんだけど)
晶子がここに来たのは、おそらく自分と同じ目的のはずだ。千晴が立ち上がり晶子の傍に足を運ぶと、晶子はにっこりと微笑んだ。
 
「やっぱり、ここに来たんだ。」


「うん。とりあえず、サバイバルには食料かなって…。俺の次に出発したの、中條さん?」


「ううん。結局最初のハルだけくじ引きで、その後は名簿順だったの。
だから、わたしの前にかおるちゃんと、天ちゃんが出発してるんだけど…ここには来なかったみたいね。」

 
晶子の言葉にふと腕時計に目を落とすと、何時の間にか千晴が出発してから1時間以上の時間が経過していることに気がついた。

晶子の言うとおり、かおると柏谷天馬(男子2番)はここには来ていない。
そのことに千晴は少し焦りを感じていた。
千晴の考えではここで食料などをある程度調達した後、かおるを迎えに行く予定だった。
もちろん、かおるに会える確証などなかったし、他のクラスメイトとも合流できるのならばそれに越したことはないのだけれど、教室でのかおるの様子を見る限り、とにかく彼女が心配で仕方なかった。
小刻みに震えて、涙を流していたかおる。きっと、怖くて、心細くて、今も泣いている。
急に焦燥感に駆られる感覚に、千晴は背中を押されるように棚にあった菓子パンやスナック菓子、ミネラルウォーター、絆創膏と包帯をバックに詰め込んだ。本当はもっと使えるものを吟味したかったのだけれども、そんな時間はない。
こうしている間にも、かおるがどこかで泣いていると思うと、居てもたってもいられなかった。
 

「ハル?」
 

「ごめん、中條さん。俺、かおるちゃんを探しに行かないと。」
 

突然焦り始めた千晴を不思議に思ったのか声をかけてきた晶子に、千晴は真剣な瞳でそう返した。
晶子ははっとしたように目を見開いた後、力強く頷いてくれた。しかし、少し考えると、もう今にも入り口から飛び出して行ってしまいそうな千晴の右手首を、引き止めるように掴んだ。
 

「でも、当てはあるの?」

 
「ない…。でも今ならそう遠くには行っていないと思うんだ。かおるちゃん、かなり怯えてみたいだったし…。」
 

「そう、よね。でも、せっかく会えたのにここで別れるのはあまり良い案だとは思わないな。
ハルだって、このクラスで殺し合いだなんて、馬鹿げてるって思うでしょ?」

 
千晴は晶子の冷静な声に、走り出そうと準備していた体をゆっくりと晶子の方へ向けた。
彼女の言っていることは尤もだ。どうやったって、このクラスで殺し合いなんて出来るはずがないし、自分も、きっと目の前の晶子もお互いを殺す気なんてさらさらない。
必死になってかおるを探すのは、誰かから守るためではなくて、ただ、かおるをひとりにしたくないからだ。それだったら、晶子とこのまま合流して、一緒にかおるを探してもらうのもいいかもしれない。
その方が、後々全員で集まることの出来る可能性が高くなるのでは?
 

「わたしと萌だって、普段は全然仲良くなんてなかったし、今だって好きかって言われたら微妙だけど、
だったら殺せるかって言われたらそんなこと出来ない。きっと萌も同じだと、思う…。」
 

少しバツが悪そうに話す晶子に、千晴は少しだけ笑った。
確かに成瀬萌(女子3番)と晶子は折り合いが悪く、今も冷静で感情に流されない晶子と、わがままで天真爛漫な萌とではタイプがまったく違うけれど、晶子の言うとおり2人が殺し合いをすることなど想像できなかった。
晶子の幼馴染である神尾龍之介(男子3番)が出発し、萌も、もうそろそろ出発する頃だ。今本部の方に戻れば、先に2人と合流できるかもしれない。

 
「中條さんがここ、本部エリアの外にいるってことは、もう龍は出発したってことだよね。
このまま合流するなら、かおるちゃんを探す前に龍を迎えに行く?」
 

「あ、それは大丈夫。龍とは、待ち合わせしてるの。ここの隣の、体育館で。そもそもここに寄ったのは、龍と会う前に食べる物とかを確保したかったのと、ここなら、誰かいるんじゃないかっと思ったから…。」
 

「待ち合わせ?どうやって?」

 
「紙の切れ端にエリアと体育館って文字を書いて、出発の時に龍の机に置いてきた。
もしかしたらあの人達は気づいてたかもしれないけど、きっとそれくらいは見逃してくれるのね。何回も何回もプログラムを見てきた人達からすれば、きっと、よくある事なのよ。」
 

あとは龍が地図を間違えないことを願うわ。晶
子はそう言って少し困ったように眉を下げて笑った。彼女のその笑顔を見て、少し胸が痛んだ。
晶子も大人びているとはいえ、かおるや萌と同じ中学3年生の女の子だ。やっぱりこんな状況は怖くて、誰かに頼りたいのは同じはず。それなのに、自分は晶子をおいて、かおるを探しに行こうとしてしまった。
晶子に対し少しの罪悪感を覚えながらも、それと同時に晶子の中の、龍之介の存在の大きさが分かったように思えた。やっぱり、こんな時に晶子が頼るのは、彼女に想いを寄せる天馬ではなく、幼馴染の龍之介なのだ。そう思うと、天馬が少し不憫にも感じたが(ごめん、天ちゃん)、これまでずっと、幼馴染として隣に居たのは龍之介だ。天馬の想いを知らない晶子にとっては、当然のことなのかもしれない。

 
「ねぇ、でもやっぱりそうだったのね。」

 
「そう、って、なにが?」
 

「ハルって、かおるちゃんのこと、好きだったんだなぁって。さっき本当に必死で、びっくりしちゃった。普段からすごく、いい感じだったものね。ほのぼのカップルって感じで。」

 
「え、や、違うよ!かおるちゃんは、妹みたいな…とにかく可愛くて…。好きとか、そんなんじゃ…」

 
しどろもどろになって弁解する千晴に、晶子はまた小さく笑った。顔が熱い。今、自分の顔は真っ赤に違いない。
かおるのことは、本当に大切で可愛くて仕方がないけれど、それが恋愛としての“好き”なのかと言われたら本当に分からない。
だからと言ってかおるに他に好きな人が居たら…なんて思うと気分は良くない。でもそれは妹のように思っているからなのかもしれないし…。そもそも、今まで女の子を好きになったことがない千晴は、恋愛感情というものが良く分からなかった。
ひとつだけ分かるのは、いつか自分が好きな人が出来るとしたら、きっとかおるのような子なのだろうということだ。
でも、今はまだそれを考えることをしたくない。答えを出したくない。
自分の考えを出来るだけ晶子に悟られないように、千晴は決して得意ではないけれど笑顔を作った。
 

「とにかく、かおるちゃんは、妹みたいな感じだよ。龍と中條さんだって、同じような感じでしょ?」
 

誤魔化すつもりで早口で言った言葉に、晶子が少し驚いて目を見開いた。ずっと握られたまま忘れていた右手首が、やっと開放され千晴は小さく息を吐いた。
 

「そうね。それもあるけど、龍は彼氏だから、やっぱりこういう時は頼りたいって思うのよね。あんな奴でも。」
 

「え?」

 
「やっぱり、ハルにも言ってないんだ。実はね、わたしと龍、付き合ってるの。」

 
はにかんで微笑む晶子は、これまで見た中で一番女の子らしくいつもの大人びた彼女とは少し違う印象を受けた。

---しかしそんなことよりも、千晴はたった今晶子が言った言葉をすぐに理解出来ずに居た。

龍之介と晶子が、付き合っている?幼馴染じゃなくて?彼氏彼女?

え、ちょっと待って。そんなはずないだろう?だって、天馬はずっと晶子のことを好きだった。これは龍之介も知っていたはずだ。それなのにどうして…。
 


「中條さん、それっていつから…?」

 
「中学2年の秋くらい…かな。龍にはずっと恥ずかしいから言うなって口止めされてたし、わたしも別にわざわざ言うことじゃないって思ってたから。でもこんな状況だし、もう隠す必要もないでしょう?」

 
それはそうだけど!と大声で叫びたかった。
中学2年の秋、というと天馬が晶子を好きだと千晴達に打ち明けた時よりもずっと前だ。
きっと龍之介は、頬を赤くして、照れるのを必死に隠して、プライドの高い天馬が自分達に明かしてくれた想いの前に、本当のことを言えなくなってしまったのだ。
それでも、あの時龍之介は間違いなく「応援するよ」と天馬に言った。天馬に、後戻り出来ない嘘を吐いた。
龍之介は、ずっと辛かったに違いない。天馬のする晶子の話を、龍之介はずっと笑って聞いていた。龍
之介は報われない天馬の恋を笑っていた訳ではないだろう。自分の嘘にずっと胸を痛めていたと思う。
自分は、龍之介の思いに気がつくことが出来なかった。
 

知らなかった。こんなに近くに、亀裂があったなんて。
 

とにかく、今はかおると、そして天馬を探さなければ。
天馬がこの事実を変な風に知る前に探し出して、上手く伝えなければ。
これ以上、亀裂が大きくなる前に、2人の間に居ながらなにも気づくことが出来なかった自分がなんとかしなければ。
 

「ごめん、中條さん。やっぱり俺、かおるちゃんと天ちゃんを探しに行くよ。龍と先に合流して?」
 

「どうしたの、急に…」
 

「いや、やっぱりさ、バラバラにみんなを探して、後で落ち合った方が良いと思うんだ。だから、半日後に体育館で集まろう。」
 

「うん…。ハルがその方が良いって言うなら。」
 

「ありがとう。あと、さ。さっきの話だけど、もしかおるちゃんとか、成瀬さんとか…天ちゃんに会ったら、まだ内緒にしておいて欲しいんだ。」
 

「それって、わたしと龍が付き合ってるってこと?どうして?」
 

「理由は、今は言えない。どうしても知りたいなら、龍に聞いてみて。」
 

晶子は腑に落ちない表情だったけれど、千晴の先ほどとは違う様子に渋々といった形で頷いた。
荷物をまとめ、前よりも重い足取りでドアをくぐろうとした所振り返ると、晶子と目が合った。
切れ長の凛とした瞳。この、暗い地獄のような場所でも背筋を伸ばして真っ直ぐと立っている。
天馬も、そして龍之介も、彼女のそういう所を好きになったのかも知れない。
 


「ハル、後で必ず会いましょう。必ず。」
 


晶子の声はどこか震えているような気がして。
みんなが悩みもなく笑って過ごせる仲良しクラスなんて、所詮幻想だったのだ。
俺はそれに、気がついてしまった。
過ぎった考えを振り切るかのように、千晴は走り出した。
 
 



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